携帯電話への映像サービスに向けて
第3世代「3GPP」準拠ゲートウェイ



尾上泰夫

宇宙の神秘、日食の南極発、世界規模のインターネットライブ中継イベントも成功裏に終わって関係者は大変にご苦労様でした。
師走の慌しい中だからこそ、今年一年のストリーミングサービスの傾向と、来年に向けてのサービスを考えてみたい。
2003年はストリーム元年と呼ばれてきたが、性能向上に匹敵するような市場の伸びは感じられずに来た。ステレオタイプなビジネスモデルの中で映像コンテンツそのものへの期待感欠如や、制作者の意欲減少も見逃せない。
年初に映像配信ビジネスへ乗り込もうとした企業が、早々撤退する動きも多く見てきた。
映像コンテンツをテレビ、映画に求めすぎていないだろうか?
視聴機会が変われば求められるコンテンツに変化があって当然なのに。
使いまわしのコンテンツが通用する世界ではないと、そろそろ気付くべきと思う。
年末のまとめとしてインターネットでの映像コンテンツ視聴を可能にしたストリーミング技術のまとめと、今後のストリーミング技術として課金体制の整い易い携帯電話での映像配信を考えてみよう。

ストリーミングの

ストリーミングにおけるMPEG-4の普及
3-1 標準化団体におけるMPEG-4の採用
 国際標準規格であるMPEG-4は、業界における標準化団体においても採用されています。
・ISMA(Internet Streaming Media Alliance) ・3GPP(3rd Generation Partnership Project) ・WMT(Windows Media Technology)
ISMAは、Apple, Cisco System, IBM, Sun Microsystems, Philipsなどを中心とした業界団体であり、はじめてMPEG-4において標準規格をなしました。PC上でのストリーミングを対象として、プラグインという形で提供しています。
 3GPPは、第3世代(3G)移動体通信システムの標準化プロジェクト、また移動体通信システムの標準規格です。次世代携帯電話の国際標準「IMT-2000」の日欧方式であるW-CDMAの標準化とQUALCOMM社のcdma2000方式も取り込んだ世界共通規格を策定しています。日本ではNTTドコモとJフォンが次期サービスにW-CDMAを採用するため準拠しています。なお、KDDI(au)はcdma2000によるサービスを計画しており、3GPPから派生した3GPP2に準拠しています。
 WMTは、Microsoftが策定した音声や動画などのマルチメディアコンテンツを統一して扱うことができるストリーミングフォーマットで、ASFやAVI型式のフォーマットのことを指します。しかし、Microsoftが独自に示した規格であり、本来のMPEG-4とは互換がありません。
 ここに名を連ねる企業は、ストリーミングにおいて最も影響力のある団体です。このことは、標準規格に準拠したPDAや携帯電話、プレーヤーなどのMPEG-4に対応した製品を大きく扱っていくことを意味します。

 

3-2 MPEG-4アプリケーション
 ストリーミングを配信するためのシステムは、映像や音声を圧縮しデータ化するための「エンコーダー」、エンコードされたデータを配信するための「サーバー」、データを受信し閲覧するための「プレーヤー」の3つのソフトまたは機器で構成されます。

モバイル環境でのMPEG-4
 第三世代携帯電話FOMAでは、移動体通信のシステムの規格を制定している「3GPP」が標準化した規格に含まれるモオーディオビジュアル通信規格モ「3G-324M」をサポートしています。
 非常に低いビットレートでの配信が可能なこととコンテンツプロバイダに必要な著作権の保護が可能なMPEG-4は、携帯端末やPDAといったモバイル環境における環境でも特に優れた威力を発揮します。


 このようにストリーミング技術が台頭し、様々な優れた面を持つMPEG-4の機能は、ストリーミングの世界では不可欠となっています。特に、インターネット、PDA、携帯などあらゆる機器に映像や音声を配信するという強いコンセプトが、国際標準規格であるMPEG-4にあります。

 

技術的な側面としては高品質な映像を提供する

はじめに、インターネットに接続するパソコンユーザーよりも、携帯電話でメールなどを利用するユーザーの数が勝っている実態を


ブロードバンドの進展に伴い,映像,音楽,電子書籍,ゲームなどいわゆる高価値コンテンツの配信が可能になってきた。その中でも最も大容量となる映像コンテンツは,ダウンロードによる事前の配信より,ストリーミングによる即時の配信がより適している。ストリーミングによる映像配信は,ライブ放送とVOD(Video OnDemand)の二つの形態があり,核となる技術は,映像を符号化するコーデック(MPEG-1/2/4など),配信するプロトコル(RTSP/RTPなど)である。それ以外に,実際に適用するシステムを構築し,運用するためには,認証・課金システムとの連携, 負荷分散,DRM(Digital Rights Management:コンテンツ保護)などの技術が重要である。
 本稿では,実際の適用システムの構築・運用に必要となる技術とそ
している。Webブラウザ
@コンテンツを選択
利用者認証要求
AセションURL
配信システム
連携処理
セションURL生成
Webサーバ
実験,試行という段階であったが,このような業界の後押しと,ブロードバンドの進展により,徐々に商用サービスとして実用時期に入ろうとしている。本稿で紹介する技術も,商用サービスに必須であり,重要性を認識されつつある。
認証・課金システムとの連携
 有償サービスには,認証・課金が不可欠である。また,無償でも,利用者数制限や不当アクセス防止の理由で認証を行う場合がある。一般に認証・課金は,サービスの内容やサービス提供者のポリシーに大きく依存するためサービス提供者ごとに独自システムとして開発されるのが通例である。
一方,インターネット上の配信サービスはWebによるメニューサーバを入り口として提供される。
したがって,サービスとして認証・課金を行うには,配信システム(メニューサーバ,配信サーバ)と認証・課金システムと連携することが必須である。
この連携は,メニューサーバ上にWebを通して利用者認証を行う連携処理を準備し,配信サーバ上にストリーミングサーバに組み込んで使用する利用者数制限や不当アクセス監視,課金を行う認証プラグインを準備する方法により実現できる。
 以下に認証・課金システムとの連携の例を示す
(図-1)。
@ 利用者が端末のブラウザからコンテンツを選択
A 連携処理はその延長で認証・課金システムにアクセスして認証処理を行い,そのセション上でのみ有効となる暗号化されたセションURLを生成し,端末に通知
B ストリーミングプレーヤはセションURLで配信サーバに配信要求
C 配信サーバは組み込まれた認証プラグインを呼び出し,配信の妥当性を検証した後,セションURLを実URLに戻して配信を開始

 大規模に安定した配信を行うためには,配信サーバの配信可能な帯域を制御し,複数の配信サーバで負荷分散して配信する必要がある。
このため,以下のような機能
(1) アドミッション制御機能
 指定されたサーバと端末間で,指定された帯域を確保したストリーミング配信が可能か否かを判断する。
複数の配信サーバがある場合に,サーバ負荷(配信数)や地域性を考慮した最適なサーバを選択する。
 これらの機能を, ポリシー管理サーバとCDN(Contents Delivery Network)制御サーバで構成して実現する例を図-2に示す。

● ポリシー管理サーバ
 ネットワークおよび各種配信装置の稼働状況を管理する機能を提供し,CDN制御サーバと連携して,帯域オーバ時のアドミッション制御を行う。
(1) アドミッション制御機能
 CDN制御サーバからの要求に基づき,ネットワークに割り当てた各種サービス単位の使用可能帯域をチェックし,要求を受け付けられるか否かの判定を行う(入場規制機能)。
(2) リダイレクション制御機能
 CDN制御サーバから配信サーバ候補リスト情報をもらい,各種の条件(例:接続ユーザ数の一番少ない配信サーバで,かつユーザに最も近い位置にある配信サーバ)に基づき,最適な配信サーバを検索し,CDN制御サーバに通知する。
(3) 帯域制御機能
 配信サーバと端末間の経路に位置する各ノードの使用可能帯域をチェックし,帯域制御・優先制御を行う。ストリーミングトラヒックをほかのバースト的に流れるサービス(メール,ファイル転送など)から分離し,必要帯域を確保する。
● CDN制御サーバ
 ポリシー管理サーバと連携し,メニューサーバに対して最適な配信サーバの指示を行う(リダイレクション機能)とともに,コンテンツの配備(キャッシュ)状況を管理する。
(1) 最適配信サーバ選択
 ポリシー管理サーバと連携し,最適な配信サーバを選択する振り分け処理を行う。
(2) コンテンツの事前配布
 同一コンテンツへのアクセスの集中を抑止するため,コンテンツを別な配信サーバ(ミラーサーバ)に対して事前配布する。
 なお,最適なリダイレクションを行うため,CDN制御サーバではオリジナルコンテンツ,キャッシュコンテンツの配備状況を管理する。
DRM(コンテンツ保護)
 高価値コンテンツの配信を行う場合,不正使用を防止するためのDRM(コンテンツ保護)技術が不可欠である。ディジタルコンテンツ配信がビジネスとして本格化する条件として,DRMが重要視されるようになってきた。
 以下に,コンテンツ配信へのDRM適用のねらいについて述べる。
(1) 高価値コンテンツの配信
 簡単に破れない強力なDRM技術により,ライセンスを取得したユーザのみにコンテンツの視聴を許可する

メニューサーバポータルCDN制御サーバアドミッション・リダイレクション要求
・Webポータル
・コンテンツプロファイル管理
エンコーダ
コンテンツ登録
ライブ配信
図-2 帯域制御・負荷分散
Fig.2-Bandwidth control & load balancing.


これまでのストリーミングは,ビデオカメラの入力をパソコンでエンコードし,再生もパソコンで行う形態がほとんどであった。現在,以下のような様々な端末が増加しており,これらを接続することでいわゆるユビキタス環境を実現できるため,飛躍的に利用範囲が拡大する。
今後,ユビキタス映像配信システムとして期待される。
(1) IPカメラ
 最近,MPEG-2やMPEG-4のエンコード(符号化・圧縮)を行い,かつ,インターネットに直結可能となる安価で接続容易なカメラが急増している。
STB
 家庭のテレビに高画質な映像を再生する装置として,安価で操作が容易なSTBを各社が提供し始めている。
PDA
 個人用のポータブルな端末であるPDAで映像の再生が可能となっている。
(4) 携帯電話
 テレビ電話機能を持つ3G携帯電話で,映像再生が可能である。今後,携帯電話で撮影した映像を逆に配信する(携帯電話が入力端末となる)機能も望まれている。


ディジタルコンテンツ配信の適用技術

富士通の製品であるMillionStreamは,基本的な配信機能はもちろん,上記に説明した実運用に必要となる機能についても提供している(図-4)。以下に主な特長を
(1) 運用管理機能(リダイレクションなど)および認証・課金連携,負荷分散,帯域制御,放送スケジュール配信といった実運用に必要な機能も実現。
 また,ポリシー管理サーバとして,ネットワーク機器の情報をリアルタイムにできる富士通のProactnes/PNを適用することで,最適な帯域制御・負荷分散を実現。
 さらに,強力で,かつ適用範囲の広いDRM技術であるUDAC ( Universal Distribution with Access
(2) ユビキタス環境への対応(多様な端末との接続)
 IPカメラ,STBの各ベンダと協調して,いち早く接続を実現。携帯電話接続も3G携帯電話へのゲートウェイである富士通のGeoServeSDSとの連携により実現。
(3) 大規模・高信頼配信
 富士通製のサーバ,OS,アプリケーションの組合せで,安定した大規模な配信を実現。配信規模に応じて最適なシステムを構築し,必要最低限の設備で実現し,トータルなサポートを提供可能。
(4) リアルタイム配信の実現
 ライブ放送で重要となる遅延を最小にする技術であるFEC(Forward Error Correction:前方誤り訂正)にいち早く対応。


 通信と放送の融合が叫ばれ,ストリーミングシステムは社会システムの一部として組み込まれていくことが十分に予想される。今後,ますます重要な技術として,適用ユーザの利便性の向上が求められていく。
 富士通のMillionStreamは,複数の通信キャリアに対し,実験,試行サービス用途として提供し,適用した実績がある。今後,商用サービスでの適用性を向上させるため,標準化への追随,端末バリエーションの拡大,高信頼・高性能の追求,運用性の更なる向上に取り組んでいきたい。


富士通株式会社(代表取締役社長:秋草 直之、本社:東京都千代田区丸の内、以下 富士通)とNMSコミュニケーションズ社(最高経営責任者:ボブ・シェクター、本社:米国マサチューセッツ州フラミンガム、以下 NMS、NASDAQ:NMSS)は、インターネットからIMT-2000プロトコル準拠のモバイル端末へマルチメディアコンテンツを配信するワイヤレスビデオゲートウェイシステム「GeoServe SDS(ジオサーブ エスディーエス)」を共同開発しました。
このゲートウェイシステムは、富士通が、自社のUNIXサーバ「PRIMEPOWER(プライムパワー)」にNMSのメディアストリーミングプラットフォーム「Convergence Generation(コンバージェンス・ジェネレーション)」TMを実装し、アプリケーションソフトウェアを開発することで実現しています。また、ゲートウェイシステムと連携するストリーミングシステムは、富士通が開発したストリーミング配信ソフトウェアを使用しています。
これらのシステムは、株式会社NTTドコモ様が提供するFOMA映像ストリーミングサービス「Vライブ」において採用されています。
このゲートウェイシステムは、単にUNIXサーバ上のソフトウェアでプロトコル変換処理を提供するものではなく、専用ボードによるハードウェアでの高速処理を実現したものです。このことより、ゲートウェイシステムの導入がストリーミング配信の即時性を損なうことはありません。
富士通は、自社のサーバシステム開発技術および広域サービス向けネットワーク構築技術と、NMSのモバイル端末に対する標準仕様準拠のビデオ・オーディオ技術を融合することにより、高速、高品質なワイヤレスビデオゲートウェイシステムを短期間で開発し、全国展開レベルのキャリアサービスへ製品提供することに成功しました。
NMSは、富士通と協力することでNMSのプラットフォーム&ソリューション事業におけるアジア市場への早期参入を果たしました。
このゲートウェイシステムを利用することにより、ワイヤレスサービスプロバイダは、ライブまたは蓄積されたマルチメディアコンテンツを同時に複数のモバイル端末へストリーミング配信することが可能です。配信対象となるモバイル端末は、3GPPの3G-324M仕様(*5)に準拠していることが必要です。配信できるマルチメディアコンテンツは、コンシューマに焦点を当てたものからビジネス志向のものまで広範囲にわたり、ニュース、エンターテインメント、会社情報の配信、ライブのセキュリティモニタリングなどが考えられ、多種多様なモバイル・ソリューションを提供することが可能です。
今後、両社はこのシステムを発展させ、双方向映像配信や多種のコーデックをサポートすることにより、ワイヤレスサービスプロバイダに対して新サービスを提供していく予定です。


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