MPEG-4の応用事例

MPEG-4マルチレイヤ-と画面合成」

 

2001-06-04

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尾上泰夫

 

動画映像のストリーミングを行う場合、実際に動くビデオ部分だけでなく、周りのフレームや静止画部分の処理を含めて演出を行う必要がある。
例えばWebブラウザーで見ると、動画のフレームと、静止画フレーム、そしてテキストフレームなどを適時に送出することが求められ、SMILICMLなどの記述言語で実現することになる。
例えばVideo関連のプレーヤー内で実現する場合は、個々の開発環境を利用することになる。
今回はMPEG-4の持っている機能を利用した方法を紹介しよう。

 

MPEGは圧縮方式の中で、特に再生の方法を定義した規格だ。
ビデオCDや、パソコンで再生する動画ファイルとしてポピュラーなMPEG-1DVDCSなどの放送信号として圧縮された高画質映像の代名詞であるMPEG-2、昨今の音楽配信などで有名になったMPEG-3、そしてストリームビデオとして、また次世代携帯電話の動画配信フォーマットとして期待されているのがMPEG-4である。
ここでMPEGの大前提を押さえておこう。MPEG圧縮を宣言している素材は、基本的に、どこのメーカーのMPEGプレーヤーでもタイプさえ合えば再生可能なはずの規格だ。
逆に言えば、再生さえできれば、MPEGはどのような作り方(圧縮アルゴリズム)でもかまわない規格なのだ。ここがメーカーの独自性と、技術力の差別化を表せるポイントとも言える。
さて、MPEG-4は動画を、特に峡帯域でのネットワークで伝送することを主眼に置いた規格であるため、伝送効率を上げる仕掛けと、表現の自由度を上げる仕掛けが沢山用意されている。その一つがマルチレイヤーだ。
文字通り複数のレイヤー状にデータを管理して合成などの処理を行いながら再生することを目的としている。
技術サンプルとしては紹介されてきているマルチレイヤーだが、現在まで、純粋なMPEG-4のマルチレイヤ-をサポートしたアプリケーションは製品化されない状態だ。

今回、テレビ映画技術展に参考出品されたTDKのワンダーストリームというプロダクトはMPEG-4のマルチレイヤーに世界初で対応している。

MPEG-4のマルチレイヤ−を使うことで、今まで単に映像を流すだけではなくオブジェクト(ビデオ、静止画など)を 時系列ですべてミックスさせて串刺しで見るということが可能になっている。

複数の動画レイヤーを有する表示画面

映像や音声を流すだけでなく、ワンダーストリームはプレビュー画面とメインビュー、それらに附随する情報が一つのビューアーの中に表示して、またユーザーが見たい時にインターアクティブに画面を変えることができる。また静止画の情報動画の上に重ね合わせて一元的に見ることもできる。

カメラをだけでなく文字情報も選択できる

例えばカートレース中継のデモでは、複数のカメラ素材を自由に選択させながら、ラップタイムなどの文字情報を適時に選択して切り替え表示させたり、オーバーレイさせながら同時に表示を行うことが出来る。

透過レイヤーでラップ表示などを表現できる

現時点のプレーヤーは、次世代プラットフォームとして考えている。今回のワンダーストリーム自身はクライアント側をPC或いはセットトップボックスという想定でビデオに関しても最大で1MBPSというブロードバンドを対象とし、商品のターゲットはコーポレートユーザー或いは監視、教育等を念頭において博物館等の作品の説明としてのこのマルチメディアの特性を生かすということを想定して開発しているそうだ。

なお、オーサリング環境は現在開発中だ。

 

次に変わったアプローチの技術展示がビクターJVCからStreaming Media Japan 2001に出展されていたので紹介しよう。
内容はレイヤー操作ではなく、単に、バックの大きな静止画上に人物などの動画と、説明の静止画像を合成して表示するものだ。

簡単な制作アプリケーションでバックとなる静止画像を定義する。

バック静止画面と動画合成画面を配置

例えば会社案内のプレゼンテーションでは、オフィスの風景をバックグラウンドにして、ホワイトボードの中へ情報画像を提示し、その中に表示するキャラクターのムービーデータ-を、バック映像と合成したムービーとして予め制作しておくのだ。

説明の静止画をムービーのタイミングを表示ファイルに定義しておく。

適切な場所に合成して静止画像情報も配置

説明をする女性のムービーをオフィスの風景と合成する。

さらに、説明の静止画をバック画面に合わせて配置すればよいのだ。

大画面でのプレゼンテーション画面

プロトタイプの制作環境だが、単純なだけに、企業ユーザーの要望は多いように感じた。効果的なバック画面を作れると、有効な方法だろう。
同一画面内でコンテンツの異なるデータを同時に表示する手法をRealVideoではG2のバージョンで提供しているが、多くの映像制作者にとって、パソコンのプログラムに近いオーサリング環境を使いこなすことは困難だろうと思う。

その意味ではノンリニア編集の環境に、表示スクリプト(まだ稚拙だが)のオーサリング機能までを持たせようというAdobe Premiere 6.0のアプローチは正しいといえよう。

デジタルデータに含ませるロゴ情報

さらに、電子透かし技術なども、オリジナルコンテンツの制作環境と一体にならないと本来有効には機能しない点など、まだまだこれからブロードバンドメディアに課せられた問題点は多いが、今年に入って着実に進み始めた感がある。

ハイビジョンに迫るMPEG-4の動画像展示

技術展示でWindows Media Video 8のサンプルも発表されていたが、1280×720のワイド画面が繊細に再生表示されていた。ご存知のように、これもMPEG-4である。あとわずかでハイビジョン画面に手の届く解像度になろうとしている。ネットワークは確実に映像制作者のコンテンツデリバリーの重用な基盤になろうとしているのだ。


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