デジタル環境がもたらす映像制作の変化



パーソナルコンピュータのもたらした個人のデジタル加工作業への可能性はあらゆる分野に波及している。テレビジョンの歴史とて半世紀くらいしかないが、パーソナルコンピュータはそのまた半分ほどの歴史しかない新しい技術だ。コンピュータが作動するデジタル環境は今日の映像制作を支える現役スタッフがほとんど馴染む間もない生まれたばかりの環境でもある。にもかかわらず、ここ数年の世界的に急速な普及には従来の制作スタイルを劇的に変えてしまう可能性を秘めている。
いったい、このデジタル環境は映像制作分野にどんな影響を与えていくのだろう。

私たちが始めに制作現場から感じた恩恵としてはデジタルTBC(タイムベースコレクター)などの信号補正を中心とした画像改善だったように思う。収録時の露出不足や、色温度補正などのリカバリー能力に大変助けられたものだ。しばらくするとDVE(デジタルビデオエフェクター)が登場した。ワイプなどでは不可能な画面展開で、演出に大幅なバリエーションを与えられた。この時期の番組には、決まって定番のエフェクトを使った編集が見られたものだ。時を同じくしてペイントボックスなどの静止画加工を自在におこなうデジタル環境が登場した。撮影したカットの不要部分を消去したり、新たな書き込みを加えたり。テレビ画面の表現に不可能がなくなった思いがしたものだ。
この時期の「デジタル化」とは、主に編集スタジオでの高機能化の代名詞であったようだ。

デジタル映像としてもう一つのアプローチはCG(コンピュータグラフィックス)だろう。大型コンピュータを駆使して行う学術計算の可視化は、従来人間の目で見ることのできない世界を画像として再生してくれた。カメラで撮影のできないシーンの表現、流体などの見えない動きのアニメーションなど、高価なシステムが生み出す画像マジックにあこがれた演出家は多かったに違いない。だが、この時代ではコンピュータ画面をテレビ画面へ移植するために多くの費用とノウハウを必要とした。せっかくの繊細なCG画面も画面周波数の異なるテレビには奇麗に写せなかったのだ。

DVEやCGの登場で、飛躍的に画面の加工技術は進歩した。それまではオプチカルでしか得られなかった特殊効果や合成作業が、制作予算のある映画産業でデジタル技術として開花したのもこの時期だ。やがて、多くの予算を必要としたコンピュータ関連の価格が大幅に下がることによって、現在では撮影よりデジタル作業の方が安価になるという逆転現象さえも生み出すことになる。

かつて、時代はフィルムからビデオへの変化で現像所の大幅な縮小をという制作プロセスの変化を生んだ。そして今日のパーソナルコンピュータの普及は、映像制作に携わる人の役割と、映像商品の構成を劇的に変化させる大きな兆しを示している。

 




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