モバイルビデオ編集が変える映像制作
「Apple PowerBook と FinalCutPro3が実現する即時編集能力」


2002-3-7

尾上泰夫


取材先のカフェでビデオ編集ができる時代になった。

 一昔前まではモバイルで通信をしたい時は、インターネットカフェに行くなどしなければが、最近はPHSや携帯電話のデータ通信が高速になり、さらに料金も固定化し自分の好きな場所で比較的自由にインターネット接続出来るようになった。
さらに昨年度からのADSL,FTTH,FTTBなどのブロードバンド回線サービスや、無線LAN製品の普及によりモバイル化が進み社内、自宅、出張先など場所が変わってもシームレスにネットにアクセスできるようになった。最近ではNTTコミュニケーションズがハイファイブ(http://www.hifibe.net)という無線LANインターネット接続及びブロードバンドコンテンツ配信の無料モニター実験を行っている。現段階ではモスバーガー店舗、品川プリンスホテル、ミニストップ、ブレンズコーヒーなどで利用できる。
国内だけでは無くシンガポールの空港内では、無線LANを無料で使用出来るスポットがある。実際にiBookで試してみたが、すんなりとインターネットに繋がり、日本のスタッフとリアルタイムのチャットが楽しめた。
 このようなサービスが今後本格展開していけば、カフェでコーヒーを飲みながら、あるいは空港での待ち時間にオフライン編集をし、ストリーミングでサンプルを送ることも夢ではなくなってきた。

この夢を実現してくれるのがPowerBookG4とFinalCutPro3の組み合わせだ。
ビデオ編集に使用するコンピュータのハードウェアとOS、そしてアプリケーションまで一社で提供するメーカーは現在Appleしかない。
OSXもバージョン10.1.2になってビデオ編集での安定度もすばらしい。
今回Appleから発売された最新機種PowerBookG4 667MHzをお借りしてモバイル編集からデスクトップへの橋渡しを試みてみた。


ちなみにMacOSX 10.1.2、QuickTime 5.0.5のバージョンだ。
日本語版で登場したFinalCutPro3のオフラインRT機能を早速利用してみよう。
編集素材のハードディスクへの出し入れは厄介な作業なのでパソコン本体のHDD(ハードディスクドライブ)に保存するより、外部のディスクを考えたい。
そこでIEEE1394接続のハードディスクを試してみた。
今回試用したラシージャパン株式会社のLaCie PocketDrive Fast FireWire HDDはApple標準装備のFireWireならACアダプター不要でモバイルに便利だ。
フランス製らしいデザインと対衝撃性にすぐれたパッケージが持ち運びにありがたい。


オフラインRTの特徴であるPhoto-JPEGフォーマットを選択して、1GBあたり40分、48GBタイプのHDDを利用すれば約32時間分の素材を取り込めることになる。
ロケ先で撮影した素材のOK出しから、待ち時間を利用したオフライン編集など夢のような環境が小さな持ち運びしやすいノートパソコンで実現したのだ。
最新機種PowerBookG4ではFireWireポートが1ポートだが、HDDの2ポートを使えばカメラからの入力と共に接続することができる。

 

注意点:画面のサイズ変更を伴うエフェクトはリキャプチャ?後、再度設定し直す必要が有る。これは画面の中で有効サイズを縮小してデータ量を減らし記録するオフラインRTの仕様だ。フルサイズの画像出力には約230%の拡大とレンダリングが必要になる。

アプリケーションソフトであるFinalCutPro3の使い勝手は馴染みやすく、使い込む程に便利になっていく。

 

ソフト自体のレビューは多く紹介されているので、 期待が高まるQuickTime6について掘り下げてみよう。

現在は、MPEG-4ライセンスの変更待ちだが、2002年2月12日にQuickTime6がアップルのホームページ上でプレビューされた。
 QuickTime 6は、ISO準拠のMPEG-4ソリューションであり、ISMA1.0仕様準拠としている。ISMA1.0とはISMAというストリーミングメディア用のオープンな規格の開発に取り組んでいる団体が、昨年10月にリリースしたMpeg4の技術をベースとした仕様である。ISMA参加企業はApple,Cisco,IBM,Kasenna,Philips Electronics,Sun Microsystemsなどである。
 Microsoft、RealNetworksなど現在のストリーミング市場の中心企業が参加していない状態だったが、昨年RealNetworks社が参加を表明。「RealSystem iQ」と「RealOne」の次期バージョンで,MPEG-4をネイティブにサポートすることを発表した。新バージョンが登場するまでの期間は暫定的に,パートナー企業,Envivio 社の MPEG-4 テクノロジによるサーバーおよびクライアントサイドプラグイン経由のサポートとなる。
ここにきて混沌としていたMPEG-4の仕様も一応の互換性が期待できるようになった。
もちろんApple社では、QuickTime Streaming Server 4にMPEG-4およびMP3ストリーミング機能を加えて提供している。
同時に発表されたライブエンコードを行うQuickTime Broadcasterは、MPEG-4ビデオライセンス条件が改善されるのを待ちリリースされる予定だ。
自社内でビデオサーバーを簡単に構築出来るので社内利用にはうってつけだ。

また、IDiskはAppleが提供してくれるインターネット上の無料ハードディスクだ。
iTools のメンバーに登録するだけで、20 MB の iDisk が提供される。


共有のボリュームを利用したプロジェクトファイルの受け渡しにも便利だし、ストリームデータのサーバーとしても利用できる。
これは利用しない手はないだろう。

FinalCutPro3のプロジェクトファイルでの受け渡し

オフライン編集が終われば、本編集を行うシステムへ向けてデータを移動することになる。従来のVHSなどテープベースのオフライン編集では、手間をかけて画面に表示されているタイムコードのスーパー表示を紙に書き出すなどの苦労があった。タイムコードを管理できるオフラインシステムではEDLを書き出せるものもあったが、少数の環境だったと思う。
FinalCutPro3のEDL書き出しのオプションでは、以下のフォーマットがサポートされている。CMX340,CMX3600,SONY5000,SONY9100,GVG4Plus形式での書き出しが可能だ。リニアの編集機へ持ち込まれる場合はこれを利用するのが一般的だが、DOS形式のフロッピーに出力する手間がかかる。
この際オンライン編集もプロジェクトデータをそのまま利用できる環境を揃えておくことがこれからな必要だろう。
ブロードバンドを利用して快適に通信を経由して取り込まれたプロジェクトファイルは、ディレクターの編集したそのままの状態を再現できることになる。


ここからは納品形態にあわせたバッチキャプチャ?による再現が始まる。
HDでも、SDでも、PALなどの異なる方式への変換もコンピュータのオンライン環境なら垣根は驚くほど低くなる。
素材のフォーマットを問わず、PALからNTSCコーデックへの変換などがソフトベースで可能なことも制作の幅を広げてくれる。
ポストプロダクションの新しい方向として PinnacleSystems社Cine Wave HDを導入して小型で複数編集スタジオへの環境を志向されるのも現実的な手段ではないだろうか。
ナレーションなどの収録でスポンサーの立会いなどがある場合など、ポストプロスタジオのスペースは必要なセレモニーの会場として切り離せない価値がある。
バブル時期のようにDIスタジオのような広い高価な部屋を数日貸し切りでこもる作業のように潤沢な制作予算が厳しい昨今。スタジオの有効使用率を向上させるよい方法だと思う。
納品用のテープメディアへの信号管理も、技術的に専門の方へお願いしたいと考えるのが一般的ではないだろうか。
ポストプロダクションも、ハイエンドの環境で常に最新機器を用意する方向と、音処理と最終納品用のVTR提供でハイビジョン番組制作の低価格化に対応していく二極化が求められているのではないだろうか。Apple社のビデオ制作環境には費用対効果のわかりやすい事例となっていくだろう。

今回のPowerBookG4を利用した快適なモバイルビデオ編集の環境はディレクターの夢を確実に一歩前進させたものだ。Apple社の取り組みはプロビデオの環境を本気で変えていく可能性を感じる。


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