「アナログ放送のしくみ」

FourTwoTwoCompany <http://www.ftt.co.jp>
尾上泰夫 <onoe@ftt.co.jp>

「テレビ放送のはじまり」
テレビ放送の歴史は日本では愛宕山に電波塔が1本立った時から始まった。初期は、愛宕山の電波塔の放送局で、ビデオカメラ1台で撮られた映像をそのまま電波にして空中を飛ばし、受像機のある家へ送られたのだ。カメラからアンテナへ、アンテナから受像機へ、それだけのシステムだった。これがアナログ放送の基本である。
日本で最初にテレビに撮影されたのは、1927年高松高等工業高校の高柳健次郎氏が日本で初めてブラウン管に「イロハ」の「イ」という文字を映し出す事に成功した。カメラと受像機だけのシンプルなシステムに映し出された「イ」の文字の時代に、NTSC*という日本やアメリカなど使われているテレビの映像信号方式で、525本の走査線を持ち、1秒間に30フレームを表示する方式が決められた。以来現在まで、技術は進歩しても、その方式は50年以上変わらず現在に至る。もちろん変わってしまったら既存のテレビが映らなくなるので変えられない事情が大きい。
VTRの無い当時は記録ができないので、すべてが生放送。しかも、放送当初はカメラの切り替えすらできなかったので、1台のカメラですべての制作を行っていた。
テレビの受像機は、大変に高価なもので、1日数時間の放送ではあったが、テレビを持っている家へ、近所から人々が押し寄せる時代だった。

「白黒テレビ」
始まりは白黒放送からだった。白黒放送のテレビ映像はSMTPE*(Society of Motion Picture and Television Engineers)のタイムコード*で、1秒間が30フレーム*で成り立っている。走査線*数は525本で折り返し戻る。しかし、テレビ信号では60分の1秒で1画面を1回走査し、1フィールド*の画像を作る。インターレース方式では、1フィールドに全画面の半分の画素情報が、ノンインターレース(プログレッシブスキャン)方式では1フィールドに全画素の情報がある。フィールド2枚で、ビデオの動画を構成する1コマの静止画(1フレーム)になる。この当時の番組はカメラを切り替えることで制作を行っていたのだ。

「ビデオテープレコーダの出現」
1975年(昭和50年)番組制作でもビデオカメラとVTRの特性を生かしたロケ取材が始まり、番組制作が大きく変わることになる。
放送局の中で、カメラで撮影したものを蓄積できるので、事前に撮影したものを、都合のよい時間に放送することが出来るようになった。
テレビも、放送する時間にアナウンサー、カメラマンがいないと出来ない時代から、撮りだめしてVTRから放送する事が出来る時代になった。記録できる事から、編集する事も可能になった。

「カラーテレビ」
テレビ放送にもカラーが実現する。既存の白黒テレビを無視できないために、同じ電波で白黒とカラーを扱えるように、カラー成分だけを副搬送波(サブキャリア)で後付した。そのため、情報量が増え、時間内にフレームを送りきれずにドロップフレームという特殊な時間が生じた。ドロップフレームは放送が時計に合ってなくてはいけないので、この誤差を埋めるため、1秒間30フレームのはずが、計算上29.97になってしまった。
29.97だと、1時間にして3.6秒のずれが生じる。この誤差を修正するために、指定したフレームをタイムコードから定期的に抜く規格がドロップフレームである。増えた情報量を調整するために1秒間に送れる情報が減るので、フレーム数も減るという単純な辻褄あわせだ。
また、ノンドロップフレームとは全フレームをカウントするタイムコードの規格である。正確には29.97フレームで1秒間だが、ノンドロップフレームでは、30フレームで1秒とするため、タイムコードの表示は、実時間よりも長くなる。

コラム

「アンテナの話」
1930年東北帝国大学(現在の東北大学)の八木秀次、宇田新太郎の両氏によって、発明された、我が国初の極超短波用のアンテナを、電波の谷間を埋める為に使用した。当時は、このような短い波長の電波は、まだ通信に利用されていなかったので、世界の注目を集めた。この方式は、第2次世界大戦時に日本より先に連合軍のレーダーのアンテナとして使用されたが、日本でも戦後になり研究を進め、その後テレビのアンテナとして広く使われるようになっていった。

「1本の電波塔の話」
カラーになり、VTRもでき、ある程度テレビが普及し始めると、多くの人々が見たくなり、テレビ放送を普及しようという法律が出来て、日本中でテレビが見られるようにしようという流れができた。そうなると、アンテナ1本では足りなくなる。しかし、アンテナから電波が届く距離は決まっている。電波を強くすれば届く距離は長くなるが、近くにいる人たちに影響ので、安全なある程度の電波の強さが決まってくると、ひとつのアンテナから電波の届く距離はたかが知れてしまう。そこで、中継塔ができていった。タワーの数を増やしたのだ。同じ電波の受信と発信を繰り返していって、遠くまで届けていく仕組みがここでもう1つできた。
こうして、電波塔がたくさんでき、たくさんの人が見られるようになった。
やがて、マンションや団地などの集合住宅が出てきて、屋上に1つ立てた。そしてそれぞれの家庭に引き込みというのを設けて、それぞれの部屋で見られるようにした。これがテレビの協調システム。テレビ見ることに対して放送の方式は変わらないけれど、分配の仕方のバリエーションが増えてきた。


* NTSC
日本やアメリカなど使われているテレビの映像信号方式。
525本の走査線を持ち、1秒間に30フレームを表示する。(インターレース表示)。
NTSC方式の他に、PAL方式(イギリス・イタリア・中国など)、SECAM方式(フランス・ギリシャなど)がある。

* タイムコード
撮影時にテープ上に記録されるフレームごとの絶対時間。通常、テープ頭が00時00分00秒00フレームになります。
テープ上でのフレームの住所と考えれば分かりやすく、タイムコードを手がかりに欲しい映像を探したり、自動編集を行ったりすることができる。ノンドロップフレームとドロップフレームの二種類がある。

* シンプティタイムコード(SMPTEタイムコード)
  SMTPEとは、Society of Motion Picture and Television Engineersの略。
タイムコードやカラーバーなどの、放送に必要な技術的取り決めを行っている。シンプティタイムコードは、映像関係で主に使用されるタイムコード、時間軸(クロ             ック)。フレ−ム・タイムとも呼ばれ、SMPTEの一番小さい単位は映像の1フレーム。さらにその中で、1秒あたりのフレーム数によって5種類に分けられる。DVでは1秒間29.97フレームのドロップタイムフレームが主となる。

* フィールド
テレビ信号では1/60秒で一画面を一回走査し、1フィールドの画像を作る。インターレース方式では、1フィールドに全画面の半分の画素情報が、ノンインターレース(プログレッシブスキャン)方式では1フィールドに全画素の情報がある。フィールド二枚で、ビデオの動画を構成する一コマの静止画(1フレーム)になる。

* 走査線
テレビの画像をつくる画素を横にたどって情報を送る線。走査線総数は日本の従来型テレビで525本だが、このうち実際に画像情報が乗るのは480本で、これを有効走査線(数)と言う。HDTVでは1125本(有効走査線数は1080本)