「衛星放送のしくみ」

FourTwoTwoCompany <http://www.ftt.co.jp>
尾上泰夫 <onoe@ftt.co.jp>

「地上波単独時代のおわり」
1984年1月23日、日本初の実用放送衛星BS-2aが打ち上げられ、同年5月12日からNHKの衛星放送(試験放送)がスタートした。これにより、地上波放送の単独時代は去り、地上波放送と衛星放送共存の新しい時代が始まった。同年12月には、BS-3の1チャンネルを利用する初の衛星民放、日本衛星放送が、民放などマスコミ、商社、金融その他の190社、団体の共同出資により設立され成長していく。

「BS*放送のはじまり」
宇宙に衛星をあげて静止衛星になる。ちょうど日本の真上に止まって、地球が自転しているのと同じスピードで、衛星が地球の周りを回っている。だから、止まっているように見える。アンテナがものすごく高いところにあるかたちになる。だから一つの衛星で北海道から九州まで全部カバーできる。そのようなしくみを提供したのが衛星放送になる。
これはアンテナが一本だから、その中でチャンネルを切り分けるのが従来方式でやると、相当のバンド幅を要求される。貴重な電波のバンド幅がいくつものチャンネルでは使えないのでたくさんの商品にならなくなっている。
細かく電波を細分化して、同じ帯域しか使えないけど、そこの帯域の分割が今までは5、6分割しかできなかったのが200、300分割できるということで、お客さんの数を増やしていくかたちにしたのが、衛星放送ビジネスである。
それを利用して、今度は電波を宇宙まで上げて、電波が届く地域なら日本中何処でも可能と、便利なしくみを利用するのがテレビ局としては衛星放送局になる。最初に認可がおりたのはBS(ブロードキャストサテライト)と呼ばれる衛星放送で、これが、衛星放送の始まりである。
既存局も一緒に乗っているが、BSだけで、映画専門局とか音楽専門局のチャンネルが登場し始めたのが目新しいところである。
BSの一つの特徴は、高品質。チャンネル数増加の為、ひとつひとつのチャンネルの特性が、ある程度要求される。今までのテレビ局の営業と少し違ってこれはここの局でしか見られない番組を並べはじめたのもBSの特徴の一つである。映画だけとか、音楽だけとか、趣味趣向型の放送スタイルを創りあげた。コマーシャルはいらないという視聴者もいて、テレビの放送を受け取るデコーダがデジタル化されることで、中のユーザーの管理が簡単にできるようになった。

「CS*放送」
そこで課金方式をとり、受け取るのが誰なのかわかることによって得られる放送の、ほしい情報のスタイルチャンネルサプライヤーのほうがそこの局でこの放送を流したい、という事情を抱えて衛星放送に乗り出してくるという事が行われるようになってきた。そうはいっても、放送ビジネスは莫大な金がかかるのが当たり前で、衛星の中では品質はさておき、もっと細かく分けてチャンネル数を増やそうというスタイルで参入業者にもう少し門戸を広げて、簡単に放送局になれるとはじめたのがCS(コミュニケーションサテライト)。これは通信衛星である。
放送と通信の大きな違いは、放送は、ブロードキャストするから誰が見ているか分からない。通信は、相手が特定されている。
CSでは、私は誰々です!と宣言して通信をつなげる。このようなかたちで始めたのが、CSで、衛星放送の一部である。

コラム

「BS」(Broadcasting Satellite)
放送局からの電波を、赤道上空36,000kmの宇宙(うちゅう)にある放送衛星を経由して受信する放送で、地上放送では映りにくい山に囲まれたところや離島(りとう)などでもきれいな映像(えいぞう)と音声を楽しむことができる。受信には、丸いお椀みたいな形をした衛星放送専用(せんよう)のパラボラアンテナとチューナが必要となる。
BSは放送衛星を使っており、不特定多数の人たちに向けて電波を送ることが目的である。
したがって、チャンネルの数が多くなくても、多様な質の高い番組を組み合わせて放送することが重要となる。

「CS」(Communication Satellite)
放送局からの電波を、宇宙にある通信衛星を経由して地上で受信する放送で、BS放送と似ているが、CS放送は受信希望者がCS放送の会社と契約を結んで見る有料放送が中心になっている。こちらも専用のパラボラアンテナとCSチューナが必要となる。
CSは通信衛星を使っていて、ある特定の人たちに向けて電波を送ることが本来の目的である。このため、特定の人が求めるより専門的な番組が送れるよう、たくさんの種類のチャンネルが必要になる。


「番組制作者の本音」
コマーシャルを出すためのスポンサーが欲しいのはたくさんの人が見てくれるという、メディアとしての媒体能力である。明らかに、CSの媒体能力は落ちるが落ちたことで、スポンサーが払う金額が同じ地上波の30秒とまったく違った価格帯が生まれてきたのがCSといえる。
そうすると、放送の制作費がある放送の波代といわれる放送するために売り上げられるスポンサー収入が激減したため、制作費も安くしなければ利益がでないので、CS全体でいうと、番組単価をべらぼうに安い制作費で支えられている。こういう状況が続くと良い作り手が現れにくいし、安いところでいい映像を出したいところと、出したくないところがこれからはっきり出てくるのではないだろうか。
金額がすべてではないけれど、実際に倒産する局も結構あって安定運用するためには一定の売り上げが必要なため、その利益を確保する意味ではある決まった売り上げしかないのであれば、制作費をどこまで安く切り詰めるかは、避けようがない事実である。