いろはのイから始まる歴史

 

2000-5-25

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尾上泰夫

数年前からインターネットでの映像配信(Webcastと言わせて頂く)をおこなうができたが、実際に見るにたえる映像を送ることは峡帯域の回線下で困難なことだった。

画面の小さなコマ落ちする映像を見て、「使い物にならない」と切り捨てるのは簡単である。

しかし、思い起こせば先人のテレビマンが「イ」の字をブラウン管に写 し出したころにも、そのような意見が多数であったと聞く。わずか数10年の昔だ。

その当時、使い物にならないかに見えたテレビに、広告の道を開き、現在の民放の財源を築き上げた諸先輩は、このWebcastが出来る時代をどう眺めるのだろうか。

今、アメリカでは高速、高帯域の回線を安価に家庭へ引き込むことができる。

この回線では、モニター一杯に映像を写し出すことが可能だ。丁度、DVDをパソコンで再生しているかのように。

今ではパソコンで好みのアニメを好きな時に楽しめるので、テレビの視聴をしなくなる子供達も確実に増えてきている。

そんなテレビ離れ、Webcastへの動きを反映してNAB2000では、Webcast番組を視聴するユーザーの好みによって、広告であるバナーを適した企業のものへ変えて提供するサービスが紹介されていた。このシステムでは広告出向側が1つのWebcast局との掲載期間契約だけでなく複数のコンテンツプロバイダーとの視聴出来高制も可能にしている。

バナー広告の種類も豊富で、多くのエンベットスタイルのスクリーンを提案していた。

良く考えられていて確かに便利である。タイムリーな広告は効果 的な結果を生むに違いない。

しかもローコストで可能となればナショナルスポンサーもなびいてくる訳である。

また、映像情報をすこしでも効率良く配信するための技術を提供するプロパイダーも、しのぎを削っている。TCP/IPの宿命であるコリジョン(同じタイミングで送られたデータの衝突)からおこる再送を避けて、峡帯域でありながら結果 的に多くの情報を送る工夫を商品化しているのだ。

原理はハードディスクのアレイ(複数のハードディスクを1個のデバイスとして認識させる技術)を思い浮かべて頂きたい。全米各地に多量 のサーバーを高速な光のバックボーン回線で結び、同時に同じ映像クリップ情報を、複数サーバーから複数のルートで1ユーザーへ送るのだ。受け取る側の回線が多少細い回線でも、かなり効果 のある方法だ。映像として再生している画面は、単一のサーバーから送られたそれよりも、明らかに滑らかで高品質の映像を日本にいても確認出来た。

Webcastが本気でビジネスの舞台へ登りはじめているのだ。

NAB で目立っていたWebcastで活躍する企業を一部紹介しよう。

iBEAM BROADCASTING

とにかくコンテンツが豊富で表現力が多才。

burstwara

独特の転送技術を特徴としている。

microcast 

コンテンツと同期した広告が上手に処理されている。

Akamai Technologies

圧倒的に速い配信サービスを行っている。

SightPath

すぐれた映像配信技術を発表していた同社は5月17日にシスコシステムズ社に買収された。

RealNetworks

デファクトを勝ち取った老舗は携帯電話のノキア(http://www.nokia.com)と次世代コンテンツ配信のビジネスを開くか。

Apple Computer QuickTime

波に乗っているAPPLEは、RealNetWorksとの提携をはたした。

MicroSoft Windows Media

日本では技術的な問題ではなく、一部の利権のために高額な回線コストを押し付けられ、このビジネスチャンスを外野から眺めるような状態である。

しかし、鎖国はいつまでも続かない。来るべき日のために準備をしておきたいと思う。

回線が安くなれば、すぐに採算の取れるビジネスになる可能性があるのだから。

先日、世界一周の船旅に出かけたip2000プロジェクトでは、洋上からインマルサットBを利用して様々なコンテンツを転送してきている。弊社フォーツーツーのターンキーシステムで運用されるノンリニア映像編集環境からネットワークストリームデーターを数人のスタッフで送りだしている。峡帯域でも可能な方法はあるのだ。

ところで、社内のLANであれば現在でも問題なく高速、高帯域のWebcastが実現できるのだ。学校放送や、社内放送などの閉鎖した職域ネットワーク回線を利用すれば、安価で効果 的なWebcastが可能になる。

簡単にWebcastの仕組みをRealVideoを例におさらいしておこう。基本的にQuickTimeもWindowsMediaも同じ仕組みだ。

ユーザー側から見ると「インターネットエクスプローラ」や、「ネットスケープ」などのWebブラウザーから、その映像を見るための案内ページを知ることになる。

この時の情報は、Webサーバーからhttp(ハイパーテキスト・トランスファー・プロトコル)でテキストを受信している。

オンデマンドの映像配信の場合は、Webサーバーの中に記述された望みの映像タイトルを選ぶと、メタファイルと呼ばれるダミーのファイルに書かれた別 のストリームサーバーにある映像ファイルを呼び出すことになる。これはユーザーには意識されない。

メタファイルによって呼び出されたストリーミングサーバーの映像は、rtsp(リアルタイム・ストリーミング・プロトコル)でビデオをユーザーへ送信することになる。

その映像データはユーザーのブラウザーからプラグイン機能のあるストリームビデオプレーヤーのアプリケーションを起動し、映像を再生することが出来る。

映像がページに埋め込まれたようなエンベットで記述するか、別 のアプリケーションとしてビデオプレーヤーを起動するかはWebデザイナーの選択で可能だ。

オンデマンドの映像配信は、ビデオクリップをストリーミングサーバーへ置いておくだけの簡単な操作だ。

クリップの作成もRealProducer7のような丁寧な環境が用意されているので、既存のビデオ完パケからのエンコードそのものも簡単だ。ビデオの制作も、既存のシステムが応用出来るので、比較的とっつきやすい方法だろう。

もちろん初めからRealPlayerに登録されたコンテンツは直接rtspで呼び出すことが出来る。

一方、リアルタイムのライブ中継の場合は、ファイル自体をストリームサーバーへ置くのではなく、リアルタイムエンコーダーからの出力をストリームサーバーに対して送信するのだ。ストリームサーバーは、Webサーバーから要求のあったユーザーへマルチにビデオを配信することになる。

以上のような連係プレーで複数のサーバーを経由してやり取りを行うのが一般 的だ。

このリアルタイムエンコーダーの扱いと、カメラ素材のスイッチングなどのEFP(フィールドプロダクション)がWebcastには、いままでは予算の割に荷が重い内容をもっていた。

そんな悩みを解決する道具が登場した。NAB2000でハッキリとWebcast専用のシステムとしてPINNACLEから発表された「ストリームジェニー」を紹介しよう。

StreamGENIE(ストリームジェニー)は、これ1台でインターネットライブ中継を可能にしてしまう。

備え持ち運びが便利なスーツケースのようなパッケージには、全てのライブ中継用の機能と、液晶モニター、キーボードを備えている。

6入力のビデオソース(2ライブ)のスイッチング、ミキシングと、3次元DVE、フライングタイトルなどが可能なキャラクタージェネレーターの機能を備えているだけでなく、リアルタイムのエンコードサーバーとして運用ができるのだ。

ストリーミングサーバーは、事実上、世界標準とも言われるRealNetworks社のRealServer7(G3)をサポートしている。

既存の社内放送室や、学校放送などの環境へStreamGENIEを持ち込んだその日から、LANでWebcastを実現することが出来るのだ。

また、スポーツ中継や、コンサート収録など通常のフィールドビデオプロダクションの映像ラインを別 けるだけで、ISDNなどを経由して、すぐにその場でインターネット放送が実行出来ることになる。しかも膝の上に乗るようなパッケージに全てを凝縮しているのだ。

詳しいレポートは次号にお届けする予定だ。

放送機器の展示会にコンピュータが登場した当初は、映像機器の制御コントローラーとしての役割が大きかったが、今日では、映像の再生、送信、表示のどの分野でもコンピュータの占める割り合いが大きくなってきている。

コンピュータのディスプレイがハイビジョンの手軽な受信を可能にし、パソコンの上でハイビジョンさえも編集出来る時代になってきたのだ。

DVDのハイビジョン対応はホームシアターだけでなく、パソコンのディスプレイモニターを意識せざるを得ない。

HDもそのうちストリーミングの対象になっていく方向はまちがいないだろう。

いや、全ての映像コンテンツがネットワークに乗ってくるにちがいない。

そう遠くないうちに。


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