ブロードバンドの品質を支えるエンコーダー
「ハイエンドエンコーダーの動向」

2001-10-09

尾上泰夫

 

高品質の動画伝送が可能なブロードバンドネットワークにふさわしい、高品質なエンコードについて考えてみよう。

ポイントは品質と、自動処理化だ。

 

従来の侠帯域のナローバンドネットワークでは、小さい貧弱な映像しか送れなかったために、品質を考える以前の状態であったが、最近ではHDIPネットワークで流すなど、高帯域伝送の勢いが盛んだ。

広帯域で多くの情報が送れるようになると品質への要求も当然やかましくなってくるものだ。

 

ここで、パソコン画面で見る高品質ビデオを考えてみるために、逆のケースから考えてみたいと思う。つまり、パソコン画面で作成された画像をNTSCビデオに変換する際の信号帯域の違いを思い出してほしい。パソコンの白(RGB256,256,256)信号はそのままではテレビジョンの規格である100%の白信号を大きくオーバーしてしまう。パソコンの黒(RGB0,0,0)信号ではIRE0%の黒よりも沈んでしまう。これをダウンコンバーターなどで上下の帯域を圧縮することで、基準信号内で最良の色再現を行っている。

 

よくコンピュータグラフィックの画面をDVDのメニュー画面などで利用するとき、気をつけないと信号をはみ出した素材を作ってしまう。このような信号の守備範囲の違いを意識して、ビデオ信号をパソコンの画面で眺めてみると、どうも全体的に暗い印象の画面が多くなってしまう。つまり、より再現能力のあるはずのコンピュータ画面での再現にフィットしていないのが実情だ。多くのエンコーダーはカラーコレクションを含むプリプロセスの機能が貧弱なのだ。
また、テレビ画面にはアンダースキャン、オーバースキャンといった見切れの状態を示す言葉があるが、コンピュータへ取り込んだ画面は映像信号の全体が丸見えになっている。
場合によってはVITCのシグナルや、編集時のDVE処理の淵がバレていたり、不都合なケースが多くある。

これらの問題を高品質に解決するハイエンドエンコーダー2機種を紹介しよう。

 

初めに「Anystream」によるエンコードを試してみる。

ハイエンドシステムとしてICEボードを利用したプリプロセスが売り物だが、基本的にはソフトでの処理を前提としたシステムだ。

エンコードはサーバーの機能として行うので、クライアントソフトを利用したネットワーク上からの作業となる。もちろんサーバー上でもクライアントを動かすことはできる。

ビデオ入力はSDIによる高品質なデジタル処理をリアルタイムで可能にしている。

デッキコントロールもバッチ機能を備えて、正確なクリップ制作に対応している。

多くの処理を「ジョブ」として複数登録していくことで自動的に実行できる配慮がされている。

 

最大の特徴はOMFフォーマットに対応している点だろう。これはAvidの提唱するデジタルビデオの共通フォーマットで、ネットワークにつながったノンリニアシステムや、UnityなどのSAN(ストレージエリアネットワーク)システムのデータを利用してエンコードを行うことができるのだ。
対応入力ファイルフォーマットは、
AvidOMF/Media100/DV/AVI/Mpeg-1/Mpeg-2/QuickTimeが上げられている。
大きな特徴がプリプロセス機能だ。
プレビュー画面の中でプロセスのかかり具合を分割して比較検討できるので、良好な画質を選ぶのに大変やりやすい。プリプロセッシングの種類は、ノイズリダクション、カラーコレクション、スムージング等の他にクロッピング、ダウンサイジングといった機能とデインターレース、インバーステレシネやオーディオフィルター、著作を主張するウォーターマークの挿入も含まれる。
エンコーダーで対応する出力ファイルフォーマットは、

RealVideo/WindowsMedia/QuickTime/WAV/Mpeg-4/Mpeg-4(PacketVideo)/MP3/AvidOMF/Media100/Mpeg-2/Mpeg-1/DV/AVI/AIFFの出力が可能だ。

オプションでDVDで利用するMpeg-2のファイルへもエンコードが可能だ。
特に目立つのはPacktVideoだ。PacktVideoは次世代携帯電話であるNTTドコモの動画配信サービス「FOMA」で採用され実装試験をはじめているところだ。
これらのデータは必要な配信サーバーへ転送することまで自動化することができる。
すべてを設定した「ジョブ」をどんどん登録していくとサーバーが同時進行で複数処理を行っていく。

多くの素材を毎日エンコードする作業なら自動化することで、その効率を上げていこうとするのが「Anystream」のアプローチだ。

 

次にハードウェアを主体としたGVG社の「Aqua」だ。

放送機器では実績のあるGrass Valley Groupが広帯域配信の品質を極める目的でデビューさせる「Aqua」は、安定した動作を目指して徹底したハードウェアへのインプリメントでNAB2001で登場した。
ケースボディへ電源ユニット、Ethernetユニット、そしてCaptureユニットとEncoderユニットとの組み合わせで構成される。

最小構成では1枚のCaptureユニットと3枚のEncoderユニットから、最大構成では2枚のCaptureユニットと10枚のEncoderユニットまで組み合わせが可能だ。エンコードは完全に分離したハードシステムなので、パラレルで動作して高密度処理が可能になる。

操作自体はWebブラウザーからコントロールできるので設置場所を問わない。
取材時現在では日本に実機が存在しないので、詳しくはデモができるようになったらレポートをお届けしよう。

エンコーダーも放送規格の耐久性、安定性を要求される時代に入って、システムとしての位置付けをますます強くしていくだろう。

 

オンデマンドのエンコードはインデックス機能を持ったメタデータとの組み合わせを考えていくことが必須だからだ。

品質の上がったエンコーダーで映像を楽しめる時代がすぐそこまできている。